4月1日より東京中華学校の新校長として赴任いたしました王東生です。
私はかつて本校で12年間学んだOBであり、またこれまで本校の理事も務めていました。37年間携(たずさ)わった外交の仕事を離れ、このたび縁あってかつての学び舎に校長として赴任することになり、大きな喜びとともに責任の重さを感じています。身の引き締まる思いで母校の門をくぐると、たちまち学生時代の輝かしい日々が思い出され、威風堂々たる校舎の佇(たたず)まいに熱い想いがこみ上げてきました。
このたび「外交」から「教育」という全く異なる領域に足を踏み入れた私ですが、兼ねてより、華僑教育とりわけ日本国内の華僑学校における教育に携わる機会がありました。現在、東京・横浜・大阪にある三つの中華学校が持ち回りで開催している中国語スピーチ大会もその一環です。日本国内の華僑学校に通う生徒たちが互いに学び交流する場を設けたいという想いのもとに企画・推進されました。
教育には長い時間と根気が必要で、決して一朝一夕で成されるものではありません。本校の歴代校長や先生方の努力のもとで時間をかけて基盤が築かれたからこそ、これまで無数の優れた人材を輩出し、この東京という競争の激しい大都市において、歴史ある華僑学校としての確固たる地位を築くことができたのだと言えましょう。そして、先人たちが繋いできたバトンをこの手に受け継いだ今、自分は学校のために何ができるだろうかと問い続けています。
社会全体にICT化の波が押し寄せる中で、教育現場も非常に大きな変革期を迎えています。急速に変化し続ける現代の情報社会・グローバル社会を生きる生徒たちにとって、高い語学能力が求められることは言うまでもなく、情報処理のスキルもまた必須であると言ってよいでしょう。教師も伝統的な教育方法を見つめなおし、新時代に対応できる教育技術を身につけなくてはなりません。また、時代の流れに伴って学校改革のペースも加速を余儀なくされています。我々は井の中の蛙であってはならず、国際的な視野を持った人材を育成することが目下の最優先事項なのです。
教育の本質は「育てる」ことにあります。柔軟な対応力、想像力と創造力、他者を慈しむ心、他者への感謝の心、そして挫折に臆することなく問題に向き合う勇気…これら「生きる力」を培わせること。
これこそ私の校長としての教育理念です。生徒たちには、機械的学習をやめ、血の通った人間として自ら考え、学び、物事の良し悪しを判断できる力を身に着けて、輝かしい将来に向かって歩んでほしいからです。異国で生活する華人は学力(成績)を特に重視する傾向がありますが、学業成績と人間性は必ずしも比例しません。教養を身に着け、自らの価値を見出し、品格ある人間として成長することが、徒にとって何より重要だと私は考えます。
生徒の皆さん、それぞれの希望を胸に正しい目標を定め、自己研鑽に努めてください。そして人生の岐路に立ったとき、できることなら歩きやすい平坦な道ばかりではなく、時には険しい上り坂を選んでみてください。
――死魚は流れのままに流されるが、活魚は流れに逆らって泳ぐ。
道なき道を切り拓いた先には、とびきり美しい風景が皆さんを待っていることでしょう。
令和3年6月吉日
学校法人 東京中華学校
校長 王東生